情報技術の発達により、年々世界中の企業では「情報」を重要視する傾向が見られています。それは膨大な情報の中から本当に価値のある情報を見分け、ビジネスの場面で活かすことが成長につながると気づいたからに他なりません。
それに伴い、大量のデータを分析し、有益な情報を収集する「データサイエンティスト」の需要が急激に高まっています。アメリカでは3年連続でベスト・ジョブに選ばれているように、今後もデータサイエンティストには大きな期待が寄せられるでしょう。
今回は国内外で注目を浴びている「データサイエンティスト」という職業について、仕事内容や必要なスキルなどを紹介します。
日本のデータサイエンティスト
データサイエンティストの業務内容は、業界によって多岐にわたります。しかし共通していえるのは、高度なデータ分析技術によってビジネス課題を解決するための専門職であることです。
データサイエンティストが分析するビッグデータは、企業が保持、収集しています。テクノロジーの進化により、それまで習得できなかった情報が集められるようになったり、記録や保存を断念していた量のデータが管理できるようになったことから、各企業では膨大なデータを保有することが可能になりました。
これらの一貫性のない膨大なデータをまとめ、企業の実績につながるヒントを得るデータサイエンティストは、データに価値が置かれつつある現代において重要視される職業となっています。
たとえば消費者の購入履歴をもとに、年代や性別、どの時期にどんな商品を購入しているのかをまとめたデータを分析すれば、マーケティングに有益な情報を得られます。
また、ある飲料メーカーでは、自動販売機に個人の視線を追跡できるデバイス、アイトラッカーを設置し、購入者の視線を分析したところ、視線が下段に集まることがわかりました。それまで信じられていた商品棚や自動販売機では、左上から視線を動かすという“Zの法則”を覆すデータにより、飲料メーカーでは売れ筋の商品を自動販売機の下段に配置し、売り上げをアップさせたと言います。これも、ビッグデータの活用が企業の実績につながった一例といえるでしょう。
データサイエンティストのニーズが年々高まる一方、経済産業省が発表した「IT人材の最新動向と将来推計に関する調査報告書」によれば、2020年に約4.8万人もの「ビッグデータ」「IoT」「人工知能」に関する人材が不足することが予測されています。
そんな背景もあり、アメリカでは各大学でデータサイエンスに関するプログラムが開講されています。アメリカでデータサイエンティストとして働く人の平均年収は1000万円とされているものの、育成の場作りに取り組まなければデータサイエンティストの数は確保できないことがうかがえます。
日本でも総務省が2019年5月よりオンライン講座で「社会人のためのデータサイエンス演習」を開講し、実践的なデータ分析の手法を学習するためのきっかけ作りを始めています。これらの取り組みからもわかるように、各国では、データサイエンティストの育成が急がれているのです。
求められるスキルや得られる収入
データサイエンティストに求められるスキルと聞いたとき、「データの収集と分析を行うためのITスキル」を想像する人も多いかもしれません。もちろん、データを取り扱うスキルは不可欠ですが、それに加え、データを事業に生かすためのビジネススキル、分析結果から予測を行うための統計解析スキルも求められます。
◆ITスキル
データサイエンティストにとって、データ操作を行うための言語であるSQLは必須のスキルともいえます。SQLを使えるということはデータの抽出から分析までを自分で行えることでもあり、エンジニアに依頼する手間を省けます。そして、データを実際に活用できる形に処理するために、RやRubyやPythonなどといった知識も重要です。
◆統計解析スキル
適切なデータを収集し、分析を行うためには統計学にまつわる知識とスキルが必要です。統計に関する能力を検定する「統計検定」の試験も行われており、統計を行うための知識やスキルを身につけるのに最適です。
◆ビジネススキル
せっかくデータを分析し、統計を行っても事業における課題を解決に導かなければ意味がありません。マーケティングや営業、ファイナンスなどビジネスマンとして企業が直面している課題を理解し、論理的に解決に向かうための方法を考える力が必要です。
さらに得られたデータ分析の結果を社内で共有する際、専門的な知識や言葉を使って説明しようとしても相手に理解してもらえない可能性があります。そんなときは、わかりやすく説明するためのプレゼンテーション能力や文章作成スキルは不可欠です。
データサイエンティストの多くは、幅広い分野を学ぶため、専門書籍を読む、資格取得に向けた勉強をするといったことを日々行っています。常に最新の技術や知識を学び続けることで、解決へのヒントにつながっているのでしょう。
企業の規模や勤続年数、業務内容によって異なりますが、データサイエンティストの平均年収は最低でもおよそ600万以上と言われています。他の職業と比較しても高額であり、データを重要視する企業が増加するにつれ年収はさらに上がっていく見込みです。
理想のキャリアを歩もう
“大企業”と“ベンチャー企業”では、データサイエンティストとして働く際に業務の内容や環境が異なります。中には「データサイエンティストとして入社したものの、実際に任されたのはプログラムの動作確認や、データサイエンティストでなくてもできる業務だった」という経験談も聞かれます。それぞれの特徴を知り、自分のキャリアマップとの差が生じないよう意識しましょう。
◆大企業
大企業には、「人を育てるための環境」が整っている傾向があります。それは社員の人数が多く、取り組んだ業務について丁寧なフィードバックが得られる大企業ならではの特徴と言えるでしょう。また、規模の大きい業務に携われるのは、大企業であるからこその特権でもあります。
◆ベンチャー企業
AIソリューションに関わるベンチャー企業では、データサイエンティストのニーズが急激に高まっています。データサイエンティストの採用は積極的に行なわれており、ハードルは低くなっていると言えるでしょう。
ベンチャー企業は大企業ほど大きな案件に携わるチャンスが多くありません。また、データサイエンティストとしての業務経験がない新卒や別の職種からの転職だった場合、研修などの環境が整っていない可能性も。
しかし、ベンチャー企業はひとつの業務に対し、自分に与えられる裁量が大きいという特徴があります。自分に課せられる責任は大きいものの、「さまざまな業務を自分の力で動かしていきたい」と考えている人にベンチャーは向いています。
一部では「AIの台頭により、将来的にデータサイエンティストは必要なくなる」という見解が広まっています。たしかにデータ収集などはAIに任せる可能性はありますが、データサイエンティストの人材が不足する懸念は変わりません。そしてIT技術の発展により、今後データの重要性はさらに増していくでしょう。
だからこそ、「情報収集」はAI、「得られたデータの分析」は人間と、得意分野をわけて共存していく未来もありえます。引き続きデータサイエンティストは世界中で活躍する職業となっていくのです。
データサイエンティストとして輝く未来を実現しよう
国内外を問わず、大きな期待が寄せられているデータサイエンティスト。必要となるスキルや知識が多岐にわたるため、高度な職業といっても過言ではないでしょう。
しかしあらゆる課題を解決し、多くの企業をより良い方向へ導くことができるのも、データサイエンティストの魅力のひとつです。今後の可能性をもとに、転職を検討してみてはいかがでしょうか。