近年、世界中の企業の間で「エンゲージメント」という考えが注目を集めています。これは従業員の企業への信頼を意味する言葉であり、いわば「企業に対して社員個人が抱いている愛着や信頼」のようなものです。
2017年、世論調査およびコンサルティングを行うアメリカの企業であるギャラップ社が発表した調査結果(State of the Global Workplace | Gallup,2017)では、日本のエンゲージメントについて驚くべき事実を明らかにしました。
この調査によれば、日本企業のエンゲージメントの高い社員はわずか6%しかおらず、エンゲージメントの低い社員が71%、エンゲージメントが非常に低い社員が23%も存在していることが判明しました。この数値がどれほど低いかというと、アメリカの企業ではエンゲージメントの高い社員が33%、エンゲージメントの低い社員が51%、エンゲージメントが非常に低い社員が16%と、いかに日本のエンゲージメントが低いか理解できます。
調査対象の139ヶ国中132位という結果から見ても、どんなに優秀な外国人社員を採用できたとしても、従業員エンゲージメントが低い企業では、離職してしまうのも時間の問題といえるでしょう。
今回は貴重な外国人社員の定着につながる「従業員エンゲージメント」の概要やメリット、事例を解説します。
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日本企業の従業員エンゲージメントはなぜ低い?
まずは、日本企業の従業員エンゲージメントが低い理由から理解していきましょう。
従来、日本では「終身雇用」や「年功序列」が当たり前でした。そして、日本ではもともと、「長くオフィスで働くことこそが美徳」とされる考え方があり、短時間で成果を出したとしても、「残業をすることが当たり前」と批判を浴びてしまう傾向が根強くありました。
しかし、近年ではさまざまな企業が優秀な若手社員をすぐに大きなプロジェクトに参加させたり、円満な早期退職を提唱したりと、かつての働き方を払拭するような動きが活発化しています。このように、昔ながらの働き方が合わなくなり、現在では従業員エンゲージメント低下の原因になっているのです。
仕事を効率良く終わらせ、プライベートの時間を大切にする傾向がある外国人社員にとって、働き方をアップデートできていない企業は従業員エンゲージメントを著しく下げる存在でしかありません。
また、日本でフルタイム勤務経験のある外国人へのアンケート調査(第2節 高度人材の確保とイノベーションの創出|(b)我が国における労働環境に対する負のイメージ)によれば、81.7%が日本への居住を魅力に感じる一方、労働を魅力に感じるのは21.1%にとどまっています。同調査により、その原因は、「長時間労働」や「評価システムが不透明」、「昇進が遅い」にあることがうかがえます。
つまり、日本では当たり前の働き方が、外国人社員にとっては大きな不満となっており、モチベーションの低下や離職の要因となっているのです。
従業員エンゲージメントが高いことによるメリット
従業員エンゲージメントが向上すると、さまざまなメリットが得られます。その具体的なメリットに注目してみましょう。
メリット1.離職率が下がる
少子高齢化により生産年齢人口が減少している日本では、企業側が従業員を「選べる」状況であるとは言えなくなっています。そのため、外国人の労働力がこれからより一層必要になってきます。しかし、現在の採用市場は優秀な人材の採用は難しくなり、優秀な外国人社員の採用も多くの競合が集まり、容易ではありません。そんな状況下で外国人社員の採用が成功しても、企業側は常に信頼を勝ち取らなければ、他の優良企業に貴重な労働力を奪われてしまいます。それも、単純に高い給与をアピールしたところで、さらに上回る待遇を他の企業に提示されれば、引き止める要因にはなりません。
平成26年度に行われた厚生労働省の調査(働きやすい・働きがいのある職場づくりに関する調査報告書)によれば、働きがいや働きやすさがあるほうが、従業員の勤務継続の意向が高いという結果が出ています。従業員は給与をはじめとする待遇だけでなく、働きがいや働きやすさも重視する傾向にあり、「この企業で働きたい」という動機のひとつになっていることがうかがえます。この調査結果から従業員エンゲージメントの向上が離職率の低下につながっていることがわかります。これから日本企業での活躍が期待される外国人社員の定着にも、従業員エンゲージメントの向上は必須といえるのです。
メリット2.企業の業績アップが見込める
従業員エンゲージメントが向上する最大のメリットは、業績アップが見込める点にあります。
先述の通り、従業員エンゲージメントは従業員が抱く企業への信頼の指標です。つまり、従業員エンゲージメントが高ければ高いほど、従業員がその企業で働く意義を実感することとなります。結果として従業員の士気が高まり、パフォーマンスの上昇につながるのです。
そして従業員エンゲージメントが高い従業員は、自分の働く企業をより成長させたいという気持ちを抱くようになることから、より良い製品やサービスを生み出そうとします。それらが顧客満足度を向上させるため、業績アップを叶えます。
メリット3.従業員同士のコミュニケーションが豊かになる
従業員エンゲージメントが高い企業では、企業が掲げる理念に共感する社員同士の結束力が高いことが多くあります。共通の目的意識を持つ従業員が多いと社内の雰囲気も良くなり、働きやすいと感じる社員も増加します。
日本で働く外国人社員の中には、入社前に抱いていたイメージとのギャップをきっかけに勤務の継続を悩む人も見られます。しかし、従業員エンゲージメントが高い企業では社員それぞれが協力し合う環境でもあるため、困ったときでも声をかけやすい雰囲気が作られています。
特に日本に来て間もない外国人社員は、仕事だけでなくプライベートでも悩みを抱えていることもあるでしょう。そんなときにどんなに些細な悩みでも話せる相談相手がいることは、大きな助けになるでしょう。密なコミュニケーションが実現できるので、外国人社員の流出を防ぐことにもつながります。
従業員エンゲージメント向上に取り組む企業
近年では、世界中の企業で従業員エンゲージメントの向上に取り組まれるようになりました。
事例1.スターバックス
誰もが知るコーヒーチェーン、スターバックスには明確なマニュアルが少ないほか、雇用形態を問わず、すべての従業員を「パートナー」と呼ぶという独自の取り組みがあります。スターバックスで働く「パートナー」のスキルアップを目的とした研修を充実させ、結果的にマニュアルがなくても積極的に働く姿勢づくりを果たしました。
事例2.グーグル
2015年のアメリカの求人情報検索サイト運営会社による調査で、「従業員が最も働きやすい企業」に選ばれたグーグルでは、積極的に社員の声を上層部が聞き入れる体制が作られています。
一般的な企業であれば、上層部に意見を言うことも容易ではないでしょう。しかし、グーグルではメールやチャットツールが導入されている、CEO主催のミーティングが定期的に開催されるなど、直接コミュニケーションを取ることも難しくありません。企業に対して意見が通りやすく、反映される体制は従業員エンゲージメントの向上に大きく貢献しています。
事例3.サイボウズ株式会社
企業向けグループウェアやメール共有システムをはじめとするITサービスを提供しているサイボウズ株式会社もまた、従業員エンゲージメントの向上により「働きがいのある会社ランキング」上位にランクインしています。
その背景には、各社員がそれぞれのライフスタイルに合った働き方を選べる、育児・介護休暇を最長6年間取得できる、副業を許可するなど自由な働き方を選べるような人事制度を導入したことがあります。常に進化を続ける人事制度により、従業員エンゲージメントが向上したサイボウズでは、28%だった離職率を4%前後にまで減少させています。
企業に対する信頼を獲得し、長く愛される企業を目指す
生産年齢人口の著しい減少により、優秀な外国人社員の獲得はますます激化していくことでしょう。これまでの日本企業のやり方であれば、高待遇をアピールすることで優秀な人材をつなぎとめられていたかもしれません。ですが、世界と比べて従業員エンゲージメントが低い日本は、外国人社員に長く働いてもらうためにも今後は従業員エンゲージメントを高めることが重要といえます。
特に従来の日本の働き方は、すでに時代遅れのものとして捉えられることも多く、優秀な人材はすぐに離れてしまうリスクもあります。外国人社員の定着や企業の業績アップのヒントにもなる従業員エンゲージメントの向上を目指し、まずは施策を検討してみてはいかがでしょうか。