3倍に増えた外国人ITエンジニアの背景や採用状況を解説

「日本人のエンジニアを採用できないから、外国人を採用してみよう」
「外国人エンジニアをどのように採用すれば良いのか?」

経済産業省のデータによると、2020年にはIT人材の不足者は日本国内で20万人に上ると言われており、多くの企業では日本人エンジニアを採用したくても、なかなか採用できない企業が多く、その不足を補うために外国人の採用を考え始めている企業も増えております。

母国から、日本に来る外国人は勉強熱心でスキル意識が高い外国人が多いのですが、一方で日本語ができる人材はほとんどいないため、外国人の採用に二の足を踏む企業も多く、かといって日本人エンジニアの採用は厳しいため、多くの企業が悩んでいるのが実態です。

しかし、社内公用語を英語にして外国人の受け入れやすい体制を作り、外国人ITエンジニアの採用を積極的に行う企業も出てきております。

本日はG Talent(ジータレント)で人材コンサルタントを務める筆者が、外国人エンジニアを採用するための概要を解説します。

日本で働く「外国人ITエンジニア」は過去10年間で約3倍に!

厚生労働省が公開している日本国内の外国人エンジニアの統計データを過去10年分でまとめてみました。まずは下記のグラフ※をご覧ください。

データ引用先:「外国人雇用状況」の届出状況まとめ 厚生労働省(平成29年)

※過去10年分の「外国人雇用状況の届出状況まとめ」(平成20年~平成29年)よりグラフを作成

◆情報通信業の外国人労働者数推移(過去10年)

過去に2012年だけは東北地方太平洋沖地震の影響により日本で働く外国人が減りましたが、それ以降も増え続け、2017年は2008年と比べると約3倍の5万2千人までに達しました。

この背景には、日本人のITエンジニアが圧倒的に不足しており、ほとんどの企業で日本人のITエンジニアはなかなか採用できない状況にあります。その結果、企業はその不足分のITリソースを海外の人材に求めているのです。

そもそもなぜ、日本ではITエンジニアが不足しているのでしょうか?それには4つの理由があります。

日本でITエンジニアが不足している4つの理由

2017年度の日本のGDPは546兆円にのぼり、世界第3位の経済大国でもあるにも関わらず、Googleやアリババのような世界を代表するIT企業が存在しません。その背景には絶対的なITエンジニアの不足があります。

筆者はそれには4つの理由があると考えます。

理由①少子化の影響

最初の理由は「少子化の影響」です。下記グラフをご覧ください。人口を保つためには出生率が「2.0」以上必要になります。1970年代のベビーブームには2.14あった出生率が2016年には「1.44」まで減っております。日本ではITエンジニアを含めた、全ての産業を担う人材が絶対的に不足している状況なのです。

◆出生数及び合計特殊出生率の年次推移

下記グラフ引用先:内閣府ホームページ

理由②日本のIT教育の遅れ

下記のグラフを見ると、そもそも日本人の15歳の科学的・数学的リテラシーは欧米諸国よりも高く、ICT(情報通信技術)においては、ポテンシャルは低くはないことがわかります。

図の引用先:日本の学校教育の課題 内閣府

しかし、学校でICT(情報通信技術)つまり、授業においてITを使った経験に乏しいために、日本人のIT教育は、諸外国に比べても低くなっているのです。それを示す下記図をご覧ください。

日本人は、ITの基礎知識となる理数系の能力が高いにも関わらず、学校の授業において、ICTの利用経験がないために、IT教育が諸外国に比べて遅れているのです。

2020年から、ついに日本の小学校でもプログラミング教育が必須科目とされ、IT人材の拡充対策を行いますが、そもそも少子化の最中のために子供の絶対数は少なくなり、ITを支える人材の不足が解消することはありません。

また2030年になり、ICT教育を身につけた子供達が将来、必ずしもITエンジニアになるとは限りません。

なぜなら「営業」でも「人事」「経理」であっても、21世紀ではITスキルは多くの職種で必須スキルであり、プログラミング教育を受けた年代が成人になるころに、ITエンジニアの数が急激に増えるとは考えづらいのです。

理由③日本ではITエンジニアの年収が低い

アメリカや中国では、ITエンジニアの年収相場は高く1,000~2,000万円を稼ぎ出すエンジニアも珍しくはありません。しかし、日本においてのITエンジニアの年収相場は400~800万円であり、日本ではITエンジニアの年収が低いため憧れの職業というわけではなく、必然的にエンジニアを目指す人の総数にも影響します。

下記の表は「日本とアメリカの年代別の年収分布」ですが、一目で年収相場の違いがわかります。

表の引用先:IT関連産業の給与等に関する実態調査結果(PDF)

◆日米のIT人材の年代別の年収分布

理由④日本人のIT離れ

日本においては、SIerを頂点とした、ITゼネコンの多重構造になっており、下請けになればなるほど、労働環境は悪化し、単価も低く抑えられている実態があります。日本には”IT土建”という言葉があるくらい労働環境が悪く、IT業界は徹夜や土日出勤が当たり前という長時間労働が慢性化していました。

参考記事:IT業界離れ

こういった構造は、若者のIT業界離れを引き起こしているのです。現に厚生労働省の資料によると20代で、IT業界で働いている人の割合は、10年前に比べると大幅に減っているのです。

日本で働く外国人ITエンジニアは意識が高い人材が多い

まず、日本人ITエンジニアで、最も不足しているのがクラウドエンジニアです。世界的に代表的なクラウドサービスとは、AWS(アマゾン・ウェブ・サービス)であり、IT環境やITの導入が日本より進んでいる国から来ていることもあり、外国人ITエンジニアにはAWSなどのクラウドサービスの経験者が多い印象です。

外国人エンジニアを採用できれば、クラウドエンジニアが不足する日本企業には大きなメリットになります。

また、開発エンジニアに関しては、RubyやPHP、Pythonなど現在のWeb開発で主流のIT技術に接している外国人人材が多く、これらの言語は、Web開発ではもちろん、AIやビックデータの開発現場においても必須となっています。

また、そもそも母国を出て、外国で働こうという人材であるため、外国人エンジニアは向上心が強いのが大きな特徴です。日本にいる外国人ITエンジニアは、仕事が終わると、勉強している人材がほとんどで、休みの日もITのイベントに出て最新のIT情報を収集するなど、とにかくスキルを向上させる意識が非常に高い傾向にあります。

一方で日本人エンジニア

「エンジニア職なら、日本中どこにでもある」
「職に困らない!どこでも働ける(雇ってくれる)」
「内定は5社からもらったこともある」

などのように、昨今の売り手市場意識が強い傾向にあり、生活に困ることはなく、そのためか向上心のある方が少ない印象です。この点は外国人と大きく異なります。

日本人ITエンジニアの職場では、仕事の休み時間には仲間たちとゲームを楽しむ方が多いような現場も私は数社見てきました。このような開発現場の雰囲気は皆さまの周りでも多いのではないのでしょうか? 一人ひとりの働き方があり、一概に良し悪しは語れませんが、日本人エンジニアと比較して外国人エンジニアの方が向上心が強い傾向にあることは揺るがない事実ではないかと思います。

日本にいる外国人エンジニアは、休みの時間も惜しんでスキルの向上に努めており、とある開発現場では、外国人エンジニアを一人採用したところ、その意識の高さに、周りの日本人エンジニアも影響されて、勉強するようになったというエピソードもあります。

ただし、外国人ITエンジニアは「会社」に就業するという意識は日本人より薄く、「仕事」に就業するという意識が強いため、日本人に比べて定着率が悪いのも事実です。

優秀な外国人エンジニアほど、より良い待遇を求めて辞めてしまう可能性は高く、そのため企業側も定期的な面談を行い、目標設定を適切に行うなど、モチベーションを下げない工夫が必要です。

また、日本人との交流イベントも非常に有効です。例えば、3月にはひな祭り、4月には花見など、日本の定番のイベントを行うと外国人社員は非常に喜びますし、日本人社員との交流のキッカケになり、定着率の改善に役に立ちます。

日本で働く、外国人エンジニアの出身地は?

日本では、どの国から来ているITエンジニアが多いのでしょうか?厚生労働省がデータを公開しています。最新の平成29年のデータをまとめてみました。下記の図をご覧ください。

データ引用先:「外国人雇用状況」の届出状況まとめ 厚生労働省

1位は中国人、2位は韓国、3位がベトナム、とベスト3までは東南アジアが占めています。日本で働く外国人ITエンジニアの数は急激に増えていますが、IT産業全体のエンジニア不足数をまだまだ補えておりません。

昨今、外国人エンジニアが働く国を選ぶ時に、日本以外の国が選ばれるケースが増えています。また中国人エンジニアも、母国中国の方が待遇が良いため、日本ではなく上海や深センを選ぶ人が増えており、少しずつ日本が選ばれなくなっていきているのです。

下記の記事よると、香港ではハイスキル人材の移民施策を進めており、その結果ハイスキル人材の待遇は厚く、香港ではIT人材の不足がないのです。

参考記事:ハイスキル人材を最も確保しづらい国日本、その土壌に“学級委員への憧れ”?

日本は、諸外国と比較してITエンジニアの給与が低いために、本来日本の企業が絶対に欲しいハイスキル人材ほど日本を選択してくれないという由々しき現状があるのです。

外国人ITエンジニアの年収相場は日本人相場のプラス100万円が目安!

では「外国人ITエンジニアをこれから雇いたい!」という企業は、年収をどれくらいに考えればよいのでしょうか?私の経験ですが、日本人と同じスキルであった場合でも、日本人の年収相場より100万円高くなり、500万円~800万円が相場になります。

具体的には、日本人で400万円の年収の人材であれば、同じスキルでも外国人の場合は500万円が必要になります。年収相場は、需要と供給の関係で決まるため外国人エンジニアが日本企業から内定をもらっても、年収が低すぎて破断になるケースもあり、こういった事情から外国人ITエンジニアの相場が日本人よりも高いのです。

日本の経営陣には「IT部門だけの給与を特別に上げるわけにはいかない」という考えの方が多く、外国人ITエンジニアが望む年収を提示できない企業が多いのが実情です。

メルカリやLINEは外国人エンジニアを大量採用!

外国人のITエンジニアを積極的に呼び寄せる企業があります。下記記事によるとメルカリでは2018年10月にインド人を40人強入社する予定であり、LINEも自社アプリの世界的知名度の高さを利用し、応募要項から日本語を無くした結果、1000名の応募者のうち外国人が8割に上り、京都の開発部門は20名のうち13名が外国人エンジニアになったとのことです。

ニュース記事:LINEやメルカリが外国人エンジニア積極採用-人材不足補い国際化

この記事で、注目した点はLINEで働く外国人ITエンジニアが、LINEよりも良い条件のオファーをアメリカ企業からもらっていたにも関わらず、日本企業を選んだ点です。彼の発言を下記に引用します。

LINEのITエンジニア「道にごみはないし、夜に出歩いても安全。本当にここの文化が好きだ」

つまり、日本は諸外国よりITエンジニアの年収が低いものの、日本のカルチャーや食文化、治安の良さなどの要素を考慮し日本で働きたいと考えるITエンジニアもいるのです。特に家族のいるITエンジニアにとっては、食文化や治安は大きな魅力なのです。

外国人ITエンジニアを日本企業で雇う時の3つの課題

では、外国人ITエンジニアを採用する企業はどのような点に気をつけるべきなのか、解説いたします。

課題①コミュニケーション問題(日本語が流暢ではない)

まず、日本の開発業務においては日本語が必須である現場がほとんどです。日本人ITエンジニアも英語ができる人材が少ないため、日本語の細かいニュアンスが伝わらないと非常に困るのです。

具体的には、私の経験ですが、外国人のITエンジニアと日本人のWEBデザイナーチームが協業するケースがあったのですが、お互いに意思疎通できる言語がなかったために、全く意図に合わないシステムが出来てしまいました。

ビジネスで通用する日本語能力を計る指標の一つとして、JLPT(日本語能力検定)があります。N1(レベルがN1~5まであり、N1~N2がビジネスレベルの日本語)の資格を持つ外国人ITエンジニアは非常に少なく、だからと言って日本人ITエンジニアを雇うのも難しい状況であり、日本企業はどうすれば良いのかを悩んでいることが多く見られます。

そんな中でも、楽天のような取り組みは参考になるでしょう。楽天では、社内の公用語を英語にすることで、外国人ITエンジニアの採用に成功しています。

また、社内の日本人ITエンジニアにオンライン英会話を受講させることで英語力の底上げを行い、外国人ITエンジニアを受け入れやすい体制を作る企業も出てきております。こういった潮流は2~3年後にはもっと顕著になるはずで、日本語が公用語の現場では開発進まないケースも増えてくると筆者は予想しています。

課題②日本と外国の文化の違い

日本人と外国人では考え方が異なります。そのため、外国人を管理する日本人マネージャーが日本人社員と同じ考え方で外国人を管理しようとすると必ず失敗します。

例えば、外国人社員は仕事は集中して効率良く行いますが、定時になれば、周りを気にせず帰宅することの方が一般的です。マネージャーも「あの外国人は、あまり働かない・・」と考えれば、お互いに不信感が生まれることになります。こういった日本人との考え方や文化の違いを考慮する必要があります。

この課題は①の日本語の課題に比べると、解決しやすい課題です。外国人社員の採用が決定した場合、社内のマネージャ達に異文化研修を受けさせれば良いのです。この研修を行うだけでも、マネージャーの意識はずいぶん変わり、外国人社員の受け入れが上手く行く可能性が高まります。

また、採用する外国人の宗教を考慮し、礼拝できるスペースを会社が用意したり、飲み会などの交流会でお酒や食事を強要しない配慮が必要になります。

課題③外国人ITエンジニアの年収

先ほどの話と少し重複しますが、外国人ITエンジニアの年収は日本人よりもプラス100万円が目安となります。そのため、同じくらいのスキルを持つ日本人社員との間に年収の差が出来るかもしれず、こいうった問題は現場のモチベーションにも影響するデリケートな問題です。

しかし、外国人採用を成功させている企業では、給与もグローバルスタンダードで設定しており、新卒社員であっても年収600万円ということもあります。

このように相応の年収相場を設定することができないと、優秀な外国人人材を十分に採用するのは難しいかもしれません。

外国人エンジニアを雇うための3つの方法

方法①外国籍ITエンジニア特化型の人材紹介会社に相談する

外国籍ITエンジニア特化型の人材紹介会社に相談するのが最もメジャー方法です。

そういった会社はリーチしている外国人ITエンジニアの数も多く、また彼らが働きやすい企業がどういったものか?ということも理解しており、単に外国人ITエンジニアを集めるのではなく、多国籍な組織を安定的に運営していくためのコツは何か?といった相談などもできるでしょう。

ただし、一番手間がかからない方法である分、相応のコストもかかります。採用する外国人エンジニアの年収の30%~35%が採用費用の相場になります。業界では返金規定もあり、一カ月以内で辞めた場合は80%、三ヵ月以内でやめた場合は50%が返金される、などの仕組みもあることが一般的です。

方法②外国人ITエンジニアが集まるポータルサイトや、LinkedinなどのSNS、自社のオウンドメディアの活用

「Daijob.com」など、日本で働きたい外国人が登録する有名なポータルサイトがいくつか存在します。企業はそのポータルサイトにお金を支払って、求人を掲載して応募者を募ったり、サイト登録者にスカウトを送るなどして人材と接触することができます。

また、海外ではLinkedinがビジネスSNSとして使われており、Linkedin上で候補人材を探して採用する方法や、外国人向けに英語のオウンドメディアを立ち上げて、応募者を募る会社もあります。

方法③日本にある外国人ITエンジニアのコミュニティにアクセス

日本に来ている外国人には、情報交換などを目的として、同じ国出身の方々が集うコミュニティが存在します。そこでは、お互いの近況や、より良い企業の情報交換がされており、こういったコミュニティに入り込むことができれば、コストを抑えて、優秀な外国人を採用できる場合もあります。

しかし、こういったコミュニティは、まず同じ国の人間であることなど信用がベースになっており、カンタンに入り込めるものではありません。社内にコミュニティに入っている外国人エンジニアがすでにいる場合などに限られます。

外国人社員を雇うなら、外国人の在留資格が必要になる!

日本は基本、単純労働による就労ビザは認めておらず、入国管理局の審査は厳しいのが現状です。ただし、ITエンジニアに関しては、その審査も緩めな傾向があり、通常は大卒や数年の実績がないと認められませんが、ITエンジニアの場合は、就労ビザがおりやすく在留資格が取得しやすい傾向があります。

もし、すでに日本企業で働いている外国人が、自社に転職する場合は、すでにその方は在留資格があるので、企業はビザに関しては手続が不要でスムーズに採用できる可能性が高いです。

採用候補者のビザが特定ビザ(ワーキングホリデー)や留学ビザ(新卒)の場合は、在留資格を得るために就労ビザへの変更手続きが必要です。その場合、採用企業は書類を用意しビザ変更のサポートをしなくてはいけません。ただし、これらの点は行政書士が対応してくれるので想像しているほど手間はかかりません、思い切って専門家に相談すると良いでしょう。費用相場は10万円程度です。

外国人ITエンジニアを雇うことの最大のメリットは、2つの意識改革!

外国人ITエンジニアを雇うメリットは2つあります。

1つは、現場社員のスキルに対する意識改革です。とにかく日本に来る外国人には、スキル向上に対する意識が高い人が多く、アフターファイブや、休日であってもITの勉強や最新のITの情報収集を怠りません。私のクライアントの現場でも、実際に外国人ITエンジニアに触発されて、日本人の意識も高まった現場を知っております。

2つめは現場社員のワークライフバランスです。外国人は、仕事中は集中し、定時にしっかり帰る傾向が強く、どちらかと言うと、残業を好む日本人ITエンジニアの真逆の意識です。

しかし、昨今は、ブラック企業が社会問題化し、ワークライフバランスを考慮するように、政府からも企業が強く求められております。こういった意識改革をするキッカケにも、外国人社員の採用は、チャンスと言えるでしょう。